寓話

後ろは壁、前は闇。闇の先に何があるのか、踏み出さない僕には分からない。

壁の向こうから一人の男の子が僕に気づいて、ときどき食べ物を差し出してくれる。

僕はそれをありがたいと思っていて、僕は代わりに他愛のない話を聞かせる。

彼はときどき僕の話に笑い、僕はその笑顔を見て好きだと思う。彼がいつまた来るか分からないから、ときどき僕は次に会うときの話を考える。

彼と別れて一人でいるとき、僕は音楽を聴いていた。音楽は僕にとって空気のようなものだった。

僕はある日壁を登ろうとしたが、どうしても無理だった。

彼は大人の顔をして、やめてほしいと言う。彼は僕がここに留まることを望んだ。僕は向こう側には生きられないと知った。

その後も彼は相変わらず、ときどき僕に会いにきてくれた。

僕はここを立ち去らなければならないと考える。彼の笑顔を奪わないように。あるいは僕がいてもいなくても関係ないのかもしれない。

僕は何も言わず立ち去るべきなのか、一言お別れを言うべきなのか悩むふりをして、まだ、ここに留まっている。

どちらにしろ、最後に僕の好きな音楽を聴かせてあげたいと思っている。おそらく彼は気に入ってくれないのだけれど。