語彙世界戦争

例えば私は「美人」という用語を本来的に存在したであろう意味を無視し「アップや引きに耐えるラインを持つ女性」という意味で使用する。なぜならこの語は「アップや引きに耐えるラインを持つ女性」的な意味おいて使用される蓋然性が高いからである。あるいは言語コミュニケーションにおいて最重視されるべきなのは「伝達の正確性」であって「語句の意味的正確性」ではなく言語不一致は必ずしもパラグラフレベルの意味伝達を阻害しない。しかしまた私は私の属する領域に関する語彙の意味的正確性についてその不正確さを許容しない。これは存在論的意味合いにおいて私の属する語彙世界が意味的私を構成していると認識しアイデンティティあるいはレゾンデートルとして私の意味的存在認識を標榜するためである。語句レベルでのミスリードはパラグラフ全体へ影響しないが一つ断っておきたいのは文中における「私」とは著者的な意味での私自身ではなく語彙世界のすべての住人の代弁的比喩である。このような迂回表現をしなければならないのは語彙世界戦争の主役である兵士たちが語彙世界の住人であるからである。語彙世界の最上レイヤーは抽象概念として存在するが物理的には各個人の脳髄レイヤー上にのみ存在する。これは最上レイヤーの語彙世界もまた再帰的に脳髄レイヤーに分割保存されている事を意味する。つまり逆説的に語彙世界の住人は抽象概念としてしか存在し得ない。兵士はそれぞれの語彙世界の意味的正確性を遺伝情報として保持しその意味的正確性の濃度を最大限確保するためにあらゆる手段を用いて戦闘を行う。その戦果つまり個体の意味的正確性=遺伝情報の最大解釈がそのまま語彙世界の勢力図となる。語彙世界戦争とは語彙世界が相互にその名前空間を侵蝕し続けることである。